近代―未完のプロジェクト (岩波現代文庫―学術)
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カスタマーレビュー
評価:
2003-11-13
低い投票率に終わった総選挙の後で
現代ドイツを代表する社会哲学者ハーバーマスの、1980-90年代の主要な政治的発言を集めた論集。その内容は、近現代に関する原理的な考察、ナチス犯罪の相対化に対する批判、社会主義の批判的考察、東西ドイツ統一の経過と結果への批判的検討等の多岐にわたる。ドイツ現代史に関する一つの証言であると共に、現代日本について考える上でも多くの示唆を与えてくれる。とりわけ、一例として「核時代の市民的不服従」(1983年)という論考について述べれば、この市民的不服従とは、民主的な国家体制下で「公になされる、非暴力による、良心に規定された、違法の行動」であり、重大な不公正が起きている個々のケースに向けられ、成果が期待できる合法的な圧力行使のさまざまな手段が試みられかつ可能性が尽きている状態で、憲法秩序全体の機能を脅かさないような規模の、象徴的な抵抗運動である(原発建設の工事現場の占拠など)。その際、運動家は逮捕されることをも厭わない覚悟が必要であり、国家の側もあまり厳しい処罰を行なわないことが期待されている。ただ、これにはいくつか難点がある。まず、不服従は道徳的な根拠を持つべきことが要求されているが、その基準は曖昧である。また、国家の側の寛大さをどれだけ当てにできるかも難しい。現代日本において、こうした行為の意図が正確に受け取ってもらえるかどうかも微妙である。私自身も安易にこうした行為を賛美する気はないが、ただ理性的な対話を強調するハーバーマスが、それゆえにこそ対話の限界を見定め、こうした行為の正当化をしている事実は興味深い。民主主義国において、選挙以外にも署名・請願などの権利が定められていることは、いかなる国家であれ選挙のみでは十全な民主主義が実現できないことを意味しているように思う。善悪の境界線上にある市民的不服従について考えることは、こうした民主主義の多義性を考える上で大きな示唆を与えてくれる。
(23人中、19人の方が「このレビューは参考になった」と投票しています。)
